尾張藩社会の総合研究

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2015年09月29日

 洋学 at 15:10  | Comments(0) | 書評
◆岸野俊彦編『尾張藩社会の総合研究』(清文堂書店、2015年9月20日、11500円+税)が出た。尾張藩を総合的に扱ってもう6冊目である。岸野氏の構想力と尾張藩研究者の人材の豊かさにあらためて脱帽である。◆このシリーズを貫くコンセプトは、資料の徹底した読み込みと多角的分析にある。そのために、多面的な分野に関心をもつ研究者たちが継続的な研究会を開催して、その論文の質を高めていることにも敬服する。◆たとえば、種田祐司「川伊藤家の尾張藩士への貸付について」は、尾張藩士への家中貸の実態を借金証文等により解明しようとしている。その統一像は描けていないが、その複雑な貸借関係が明らかになってきた。◆こうした経済史研究は膨大な史料読解と分析を伴うので、従来の歴史研究においては敬遠されがちで、したがって研究蓄積も少ない。諸藩の武士の困窮実態を解明する手がかりになろう。◆いま、佐賀藩でも地域学歴史文化研究センターの伊藤昭弘さんが、佐賀藩御用商人でもあった薬種商野中家の経営実態を分析し、9月27日の野中家シンポでも発表予定である。佐賀藩の総合的研究も藤野保さんの段階から新たなステージへと展開しつつあるし、しなくてはならない。◆本書の掲載論文の概要も写真で紹介した。また、中野節子元金沢大学教授の紹介文がすぐれた書評にもなっているのでこれも写真掲載しておく。◆研究者以外ではなかなか入手しにくい価格ではあるが、図書館にはぜひ置いていただき、研究のネットワーク化と諸藩の総合的研究の進展を望みたい。その意味で本書は大きな指針的研究である。

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